万華鏡
「は…恥ずかしいよ…リョウ君。」
「もうすぐそこじゃん。大丈夫だって。」
何が大丈夫というのだろう。私は恥ずかしいって言ってるのに…。
人通りが少ないのがせめてもの救いだった。
バッグで顔を隠すように目だけを出して、チラリとリョウ君を見た。
「私、重いでしょ?」
「ん?平気平気このぐらい。」
ちっとも辛そうな顔をしないリョウ君。いくら年下とはいえ、20歳を過ぎれば力もあるし、男の色気なんてのもあるんだろうね。
千尋ももう男の人になってるんだろうな…。会いたい、千尋に…。
マンションの入り口で、「もう下ろして。」と頼んだのに、「ついで。」と言ってそのままエレベーターに乗った。
防犯ビデオに撮られるじゃない。もうやだ。
バッグで顔を隠したまま4階のボタンを押した。
部屋の前まで来て、やっと下ろしてくれたリョウ君。
「ありがとね。すっごい恥ずかしかったけど助かりました。」
『すっごい』を強調してわざと丁寧に深々と頭を下げた。