万華鏡
「ちっとも変わんないね、理佳子。」
そう言ってキャップのつばをくいっと上げ顔を見せた。
きれいな切れ長の大きな目に長い睫毛…。にっこり笑った顔は人懐っこさが表れ、懐かしいような気さえした。
自分の名前を突然呼ばれ、不信感が募る。
「あの、どちら様でしょう?」
「わかんない?…俺だよ。千尋。」
千尋?…嘘でしょう?記憶の中の千尋は私より小さくて、女の子のような可愛い顔で、高い声をしてたのよ。こんなに背の高い、精悍で低い声だなんて全く逆。
「信じてない顔だな。10年も前の俺じゃないんだけど。」
「ほ…本当に千尋なの?間違いないの?」
黙って頷く彼は、部屋に飾ってあるツーショットの写真の中の彼と同じ顔をした。
「手のひら見せて。」
ゆっくり開かれた彼の両手のひら。彼の左手には昔の傷痕が残っていた。
「これ…あの時の傷?」
「うん。」