万華鏡
その重苦しい空気に何て言葉を続けたらいいのだろう。沈黙が続いた。
先に口を開いたのは千尋だった。
「本当に色々あったよな。この傷もそうだけど、雨が降ってる中傘奪われたり、夏休みの工作潰したり…。理佳子は俺の事泣き虫だとずっと思ってたろ?」
「う…うん。」
「でも俺が泣いたのは理佳子の前でだけだったんだ。」
「え?」
「それもされた事に泣いたんじゃなくて、した後の理佳子の顔が悲しくて泣いたんだ。」
「どういう事?」
「この手のひらの傷の時も、謝る理佳子の顔が辛そうで、しかも泣いただろ?俺がそんな顔させたんだと思うと悲しくて泣いたんだ。だから理佳子以外の人の前では泣かなかったし、誰も俺が泣き虫だなんて思ってなかった。」