万華鏡
「おばさんがりんご剥いたから…て。一緒に食べよ。」
私の不機嫌な顔などお構い無しに、ニコニコと側までやって来て、サイドテーブルにりんごの器を置くと、千尋もその前にドッカと座った。
「どしたの?食べないの?理佳子りんご好きじゃん。」
「貼り紙。」
「は…?貼り紙?」
「とぼけないで。ドアに貼ってあったでしょ?」
「…さあ?」
はああー、もう。あんな大きな字で書いて目の前に貼ったのに、何で気が付かないかなあ。
自室に引き上げた後、ノートを一枚破り、《軟弱男、出入り禁止》と書いてドアに貼っておいたのだ。
ドアを開けて確認すると、
あれ?ない。確かにさっきここに貼ったのに。
「…あんた。剥がしたの?」
りんごを食べながらふるふると首を振る千尋。
おかしいなあ。ふう。
短くため息を吐いた。
「もういいや。あのね、この部屋今日から出入り禁止なの。」
「ふーん。誰が?」
「あんた。」
「ふーん。て…え?僕?何でさ?」