万華鏡
そのお寺はともすれば通り過ぎてしまいそうな、小さなお寺だった。門扉は開いていてどなたでもどうぞ、というような雰囲気を醸し出している。
本堂では和尚さんが一人、誰かを迎える準備だろうか座布団を並べていた。
ゆっくり本堂の方へ歩いて行き声をかけた。
「ごめんください。」
「はい。」
そう振り向いた人は随分若く、まだ20代後半若しくは30代前半のように見えた。
「よくおいでなさいました。どうぞこちらへ。」
まるで私が訪ねて来るのを知っていたかのように、本堂へ招き入れた。
「遠いところ大変だったでしょう。先ずは一服して下さい。」
「…え?」
何で遠いとこから来たなんてわかったんだろう…。
丁度そこへ奥さんだろうかお母さんだろうか、年齢がよくわからない不思議な感じの人がお茶を出してくれた。
そのお茶を口に含むと疲れが取れていくような、フワッと温かい空気に包まれるようだった。
和尚さんはにこにことそこに座っているだけで、その笑顔と体から滲み出る優しさが、何とも穏やかで何もかも話してしまいたくなる。