万華鏡
昔、カッターナイフで怪我したでしょ。あれも私が無理やり『貸して』て取り上げようとして、切ったの。大変な事をしてしまったと千尋に謝ったら、私の悲しそうな顔を見て、自分が悲しくなっちゃって泣いたらしいの。
千尋は自分の事では泣かない強い男の子だった。
そんな彼に意地悪を一杯してしまった自分が許せなくて、あの時のまま私は前に進めなくなって…。
今更遅過ぎるんだけど…。」
「…そうだったの。理佳子ちゃんも辛かったね。でももういいのよ。10年も経ってるし、きっと理佳子ちゃんが思ってる程あの子は気にしてないわよ。」
おばさんは伏し目がちに寂しそうに微笑んだ。
…あれ?…どうしたんだろ。
でも次の瞬間には楽しそうに微笑みながら、
「あの子ね、引っ越しの時大変だったのよ。ふふ…。」
「?」
「『嫌だー!』て泣きじゃくって柱にしがみついてたの。あの子がそんな事するなんて思わなくて…。びっくりしたわよ。
でね、最後に『理佳子ちゃんに見てもらおうか?その姿。』て言ったら急におとなしくなったのよ。