-SHORT*SHORT-
ダイスキ、タスケテ。
耳元でヨウが笑った。
なんでって? さぁ、私にもわかんない。
ヨウの部屋は暗い。
窓の真ん前に、大きなマンションがそびえ立ち、陽の光を遮っているのだ。
だからなのだろうか。
ヨウは、異常だった。
「チカ、あいしてる。」
何の変哲も無い、愛の言葉。
だが、それと平行して行われる、ヨウの愛の儀式。
私の腹に片手を回し、先程転んでできた私の指先の傷を、何十分も舌でなぶるのだ。
それこそ、小さな傷がふやけた回りの皮にかくれてしまっても、やめない。
私の身体から流れ落ちる血を、逃がさないように、自分の中に閉じ込めようとする、独占欲のためだ。
「……チカ、ふ…っ、」
熱い息が耳たぶと指先に降り懸かる。
その感覚が、私を震わせた。
「……ヨウ、もう血とまったよ…?」
小さな子供を宥めるみたいに、ヨウの耳元で呟けば、ヨウはニタリと笑う。
「チカの味、口の中にいっぱいだ」
ああ、それが嬉しかったのか。
ヨウの微笑に納得すると、私はヨウの唇に口づける。
そして、昨日私がつけた唇の傷を何度も舌でなぞった。
その度に、ヨウは嬉しそうに顔を歪める。
「チカ、あいしてる。」
「ヨウ、あいしてる。」
これが、私たちの愛の儀式。
互いの傷を舌でなぞり、血を体内に取り入れる。
これで、二人はいつでも一緒なんだ。
通う高校が違うからって、不安になったりなんかしない。
だって、愛しくて愛しすぎて、こうして血を共有してしまう程なのだから。
「あいしてる。ヨウ、だいすき。」
あぁ、誰かこの愛欲の沼から私を掬い上げて。
これ程までの愛を知ってしまったら、私達はただ堕ちていくだけなんだから。
ねぇ、ヨウ?
――彼への愛という名の檻は、私を捕らえて離さない。
勿論、ヨウもそうでしょう?
fin