失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
鏡に映った自分は紛れもなくあたしだった。
いや、あたしじゃなかったら困るんだけど。
外面だけはいいあたしが、眠たそうな顔をしてあたり、隈があったりしたらそれは最悪な事態を招くことになるわけだ。
鏡はあたしにとって命なんだ。
「行ってきます、お母さん……」
写真にうつるあたしに似た目をした母親に挨拶をする。
「さえきゅーん」
「……」
ドアを開けたとき、目の前にいた佐伯さんをちょっとふざけて呼べば、こちらを向いたのに無視。
すごく冷たい目を向けられました。
すごく恐かったので、一生呼びません。
「佐伯さん、お待たせ」
「いえ、では参りましょうか」
華麗にさっきの“さえきゅん”はスルーされた。
まぁいいけどね。
車の中であたしは佐伯さんと話したことは一回しかない。
前に話し掛けたら、
「亜美さんの将来が無くなってもよろしいならお話いたしますが?」
って言われたもんだから、
「遠慮しときます」
って言っちゃった。