失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
確かに少し狭いが、招いている客全てに、部屋を与えているならそれはすごいことだ。
去っていった燕尾服のお爺さんを見届けた後、もう一度鏡を確認する。
「お綺麗ですよ」
「ありがとう佐伯さん。でもなんとなく怖くてね、あたしの精神安定剤みたいなもんだから、気にしないで」
佐伯さんはそれから何も言わなかった。
気が済むまでメイクを確認したあたしは一度深呼吸をした。
――あたしはできる、できる
部屋を出ればあたしはあたしじゃなくなる。
背筋は曲げることは許されないし、お世辞がものを言う世界。言葉遣いにも気を付けなければならない。
「参りましょうか、“お嬢様”」
普段はお嬢様なんてよばないし、あたしをエスコートするみたいに、手を恭しく差し出したりはしない。
でもここはそれが普通の場所。
あたしにみんなが合わせるんじゃなくて、あたしがみんなに合わせる場所。
作り笑いでもなんでも、はりつけられるもんは全部はりつけとけ。
それがあたし流だ。
――さぁ、行こうか
―――――――――多忙少女
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