失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
昔のあたしは父親の後ろに隠れて、オドオドとしているばかりだったから。
上智さんと離れた後、顔馴染みから、契約会社の関係者……その他もろもろのたくさんの人と会話をした。
あたしの頭のなかにはいろんな人の情報が詰め込まれているから。
「亜美さん」
ある程度の人には会った。あとは……と考えていたとき、自分の名前を呼ぶ声がした。
疲れた顔を見せる事もなく、むしろ笑顔で振り向くと、そこには見たことのある顔。
――誰だっけ?
普段ならあり得ない。あたしが人の名前を忘れるなんて。
「……斎藤様です」
佐伯さんはそんなあたしに気が付いたのか、小さな声でそう教えてくれた。
――あぁ、斎藤さんね
名前が分かれば亜美のもの。
「お久しぶりです。長い間お会いしてませんでしたから、お元気ですか?」
最後にこの人に会ったのは3年前。多分その時も誰かのパーティーだった。
「覚えていただいてるとは、嬉しいものですね」
優しく笑うこの人は斎藤栄純(えいじゅん)さん。
おもに輸入関係の会社らしい。