失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
ちょ、マジでやめてくれよ。
そんなことを思っていても口にも顔にも出せない。
それに目の前の大翔は“初めまして”と言った。
ということは目の前の斎藤さんはあたしたちが知り合いということを知らないのだ。
ならば――――
「初めまして、深瀬亜美です」
あたしはそれに合わせるだけ。
「大翔は普段このような場所には連れてこないんですが、今日は亜美さんがいらっしゃると聞いて、無理矢理連れてきたんですよ」
「そうなんですか?だから初めまして、なんですね」
まぁ初めまして、なんてもんじゃないけどな。うん、知り合いすぎ。
「よかったら大翔と何か話してやってください」
これはチャンス!
この場に大翔がいるということは、手帳もこの場にあるということ。
「私もお話してみたいです。このような場所ではなかなか同世代の方はいらっしゃいませんから……」
「では、少し失礼します」
そう言って斎藤さんは人だかりに消えた。
「大翔さん、バルコニーに出ませんか?」
「いいですね」
普段を知っているだけに笑えるなんてもんじゃない。