失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
未知との遭遇
しばらく平和な時間が続いた。
まるで今を楽しめって言われれるみたいに。
「亜美」
何も用事が無いときは部屋にこもっている亜美を突然尋ねてきたのは父の、隆だった。
「……ねぇ、ノックって知ってる?」
いくら父親でも最低限のマナーは守ってほしいもんだ。
「あ、ごめん」
この時点で嫌な予感がしたんだよな。
自分の父親のことだとは思いたくないが、やつがこんなに素直なときはろくなことが無い。
「で、何?」
なるべく平常心で。
「武君が亜美とゆっくり婚約について話し合おうって……」
何でそれを父を通して言ってくるのかね?
武、あんた、あたしの携帯番号知ってるじゃん。アドレスだって知ってるじゃん。
「……あぁ、そう。あたしが返事しとくよ」
「……」
ふと父の表情が一瞬曇った。
「無理に、婚約なんてしなくていいんだからな」
「何をいまさら」
口が裂けたって、あたしはそんなこと言えないんじゃないだろうか。
「武は良い奴だよ」
あたしは、変わってしまった、かな……武のことは、いいやつだなんて思えないけどね。