失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
母がいなくなって悲しいのはみんな同じだ。
でも隆はもう前を向いている。
愛する妻が命をかけて守ったものだから、今度は自分が……と。
瑠伊も前を向いている。
母がいないのは淋しい。けれど頭がイイ瑠伊は母が戻って来ないのも分かっていた。
亜美だけが、前を向けないでいた。
そして運命の日。
その日は朝から隆の仕事がなくて、亜美のそばにみんな揃っていたときだ。
眠っていた亜美が突然起きて、周りを見渡した後、隆と瑠伊を見て笑ったのだ。
「……え、亜美?」
あまりにも突然で、隆は驚くばかりだ。
「心配かけてごめんなさい。あたし、階段から落ちるなんて馬鹿だね」
そう言ってもう一度笑ったのだ。
「…………え?階段?」
そんなはずない。
この子は階段から落ちたことなんて一度もない。
「お母さんが事故で死んじゃったって聞いて、ボーッとしてたからだよね」
ズレてる。
はじめはそう思った。
亜美の中で時間軸が完璧にズレていた。
怪我と、母の死は同時だ。
亜美の中では起きていない事がプラスされていた。