失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
隆は困惑を感じさせないように笑った。
そして聞く。
『怪我をした日のことを覚えているかい?』
と。
『覚えてるに決まってるよ!』
亜美はそうやってわらうのだ。
『言ってみてくれるかい?』
怖い。
亜美の口から語られることがとても怖い、と感じた。
『お母さんが事故で死んだって聞いて、訳が分からなくなって、ボーッってしてたら階段から落ちた。でしょ?』
隆も瑠伊も訳が分からなかった。
記憶がない。
いや、ないというより自分で作り出しているに近い。
『……そうだな。お母さんに心配かけちゃダメじゃないか。これからは気を付けような』
『そうだね』
亜美も前をむいた。
……ように見えるが、それはただのまやかしだ。
ほんとうの前進ではない。
でも、それでもいいと隆も瑠伊も思ったのだ。
亜美がまやかしでも前に進める方を選んだ。
ただそれだけの話。