失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
扉一枚が隔てる距離。
それは遠いようで近い。近いようで遠い。
手が届きそうなのに届かない。
「今夜、隆さんにお早めのご帰宅をお願いしておきます」
「うん、お願い」
佐伯は、亜美の返事を聞くと、その場を立ち去った。
亜美が知るべき事実はきっと彼女にはかなりつらいものだ。
打ちのめされて、泣くだろう。
分からなくて泣くだろう。
不安になってどうしようもなくなったとき、彼女はいったい誰を求めるのだろう。
きっと自分ではない。
瑠伊でもない。
隆さんでもない。
武でもない。
きっと彼女が求めるのはあのヤンキーたちなのだ。
賑やかに、自分をうけ入れてくれる彼らを彼女は求めるだろう。
瑠伊も武も必死になって彼女から彼らを遠ざけようとしたのに、離れなかった奴ら。
彼らの存在が亜美にとっていいものであればいい。
そして気が付けばいい。
自分にもお金持ちの世界が向いてないことくらい。
自分の幸せくらい自分で選べないような子に育てた覚えはありません。
まるで自分の子供のように、亜美にそう言ってやりたい。