失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
俺には父親はいないと思っている。
戸籍上の父親はいるけど、そんなもんしったこっちゃない。
「お前、外面だけはいいんだから、ちゃんといい顔しとけよ。仲良くしといて損はないしな」
そうやって人との付き合いを全部、損得で考える。
そういうところがきらいだ。
「本当は俺が行った方がよかったのに、金井さんがお前を指名したんだ。なんかあったのか?」
大翔は一言も返事をしていないのに、よくもまぁこんなに1人で話せるもんだ。
「……金井さんと親しいってことはな、あの深瀬さんともお近づきになるチャンスなんだからな」
“深瀬”という単語が出てきた瞬間、ドキッとしてしまった。
こいつには知られてはいけない。亜美のことを。
「深瀬家と親交があるというだけですごいことなんだからな」
こんな最低な兄のせいで改めて自覚した。
――亜美ってそんなすごいひとなんだ
すごいのは亜美の父親かもしれない。
それでも、深瀬の名を汚すことなく、むしろ深瀬の代名詞ともなるように亜美はいる。
それがどれだけすごいことで大変なことなのかは分からない。