失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿



こんな陽は初めて見た。


「――――大翔っ!!」


大雅に名前を呼ばれて、やっと正気にもどった大翔は、1つ深呼吸をした。




「――――陽、やめろ」


正気に戻ったからこそ、大翔は怒り、静かに、陽の名前を呼んだ。


でも、陽には届かない。


「陽、やめろ」


もう一度、さっきより少し声を大きくして。


すると陽は殴るのをやめ、しかし、相手の胸ぐらをつかんだまま、大翔の方を向いた。


――完璧に自分を見失ってやがる


陽が相手の胸ぐらを離した。そして、



「大翔、お前が相手してくれんのか?」


ゾワァ


何も映していない目が、大翔を見つめる。つい、冷や汗が背中を伝う。


「――俺は陽が理由もなく人を殴る奴じゃないと思ってる。理由は何だ。そいつが何をした」


ここで陽と大翔の殴りあいは避けたい。


「……理由もなく人を殴っちゃ駄目なのか?もともと俺たちは不良だ」


寒気がした。


――完璧にヤバイ


「―――――陽、何がそんなに気に入らないんだよ」


どうして、陽はいきなりこんなことをしたのか。


大翔には分からない、読めない、陽の心が。
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