失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
愛しい人、それは……
よくわからないままついていって、大雅が立ち止まったのは、小さなケーキ屋さん。
甘い匂いが鼻をつく。
昔から、陽が纏っていた、シュークリームの匂い。
生クリームの匂い。
「ここ、この辺で一番人気なんだとさ」
大翔が楽しそうに言う。
確かに、このお店からはケーキの匂いと一緒に、人の気配も感じる。
「まぁ、陽の顔は客引き顔だしな」
それはよくわかってるよ。
そういえば、夏にみんなで海の家に行った時も、陽は客引きだったもんね。
「女子高生からOLさんまで幅広いよ」
「だよね――…」
多分大翔に悪気はない。
でも、言葉ひとつひとつがあたしの心にブサブサと突き刺さる。
「なんか、遠いなぁ……」
陽が遠い人になっちゃった気がして、あたしは少し悲しくなった。
その時――――
「お兄ちゃん、バイバイ」
小さな女の子が店から、ケーキが入っていると思われる箱を抱えて出てきた。
その後ろからは、女の子にお兄ちゃんと呼ばれて人。
「あぁ、また来いよ。コケんなよ」
懐かしい声。