チョコとトマト標識
「お、おは…っ」
「おはよ。…どうしたのその顔」
スライディングが格好良く決まったところで、担任が来る前にさっさと席まで動いた。
そしてスッとカバンを机にスライドさせる。
するとすでに読書に浸りきっていたマコが、顔を上げてそう聞いてきた。
「う、ううん。藤木くんに会ってさぁ~…。偶然廊下で告白されてたから」
「…好きなの? 藤木のこと」
何を勘違いしたのか、マコが真ん丸く目を開いてそんなことを吐く。
「え、私、そんな顔してた?」
「全然」
即答で返された言葉は、何の感情もこもっていなかった。
なんだ、びっくりした。
「藤木あいつモテるからなー…ハァ…」
「うわッ安重ッ!! びっくりした!」
何かと思ったら安重が私の机に頬杖をついていて、こいつに似合わないえらく憂鬱な顔をして溜息をついた。
いつもだったらこんな話題に入ってこないのに、何か恋の相談でもあるのかな。
なんて考えてから、とりあえず返事をしてみる。
「や、安重。もしかして君は藤木くんのことが…」
「バッ好きなわけねーだろ!! やっぱお前精神科だッ!!」
冗談だったのに。
でもどうやら〝いつもの安重〟の面影は残ってくれているようで、ひとまず安心した。
「いいのよほっといて。どーせロクなことじゃないから」
半分バカにしたような声で、安重の後頭部を淡々と叩いたマコ。
「あんたらのせいで、まともに読書なんてできないわよ」