大好きな君へ
「俊哉」
「なに?」
甘ったるい声が耳に纏わりついて離れない。
それは確かに己を呼ぶ声なのに、何の感情も浮かんでこない。
まるで自分が『俊哉』ではない、他の誰かになってしまったかのように錯覚してしまう。
本当の自分は『俊哉』を演じている赤の他人。
「好きよ」
「嬉しいな」
そんなことちっとも思ってなんかいないのに。
俺は偽りの笑みを浮かべ、空っぽの言葉を返す。
あたかも俺の想いが目の前の彼女のものであるかのように。
「俊哉もちゃんと言ってよ」
「ん、なんのこと?」
「もう、わかってるくせに」