大好きな君へ
強請るように絡みつく細い腕。

下から覗き込むようにして見上げてくる二つの瞳。

与えられる全てが自分のものではない。

他の誰かのためにあるもので、欲しいとも思えなくて。

俺は、それをただ機械的に受け取るだけ。



でも、実際はそれさえも偽りで。

本当は受け取ってさえいないのかもしれない。


「ねえ、俊哉」




『ねえ、俊哉』




彼女が俺を呼んでいる。

耳に心地よく馴染む。

若干低めの低音が響く。

『俊哉』じゃなくて、俺に。

『俊哉』を演じている他の誰かじゃなくて、本物の俊哉に向けられる言葉。

果たして己は、彼女に恋い焦がれるあまり自ら幻聴を作りだしてしまったのだろうか。

甘い期待が胸を躍らせたのはほんの一瞬。


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