甘い君の唇にキス~恋の秘密は会議室で~
角を曲がる前にあたしは、ゆっくりと振り向いた。
「孝太、もう帰って」
「わかりました」
「じゃ、お疲れ」
孝太に背中を向けて歩き出す。
そして、角を曲がってあたしが見たのは。
アパート前の自販機の横でタバコを吸っている浩二。
背格好からして間違いない。
浩二はあたしに気が付くと、タバコを携帯灰皿に押し付けながら「おかえり」と笑顔を見せた。
この浩二の声が孝太に聞こえないように願った。
複雑になってしまった関係をこれ以上面倒なものにしたくはなかったから。
……それなのに
「だから、ですか」
孝太は後ろから不意に現れて、あたしの肩を抱き寄せた。
「どうして、素直に言わないんです?俺たち『恋人』でしょ」
『恋人』の部分を強調して浩二を挑発するような孝太の口調に、居た堪れない気持ちになった。
孝太の優しさが今はヒリヒリと痛い。
あたしは一歩も動けずに、ただ立ち尽くすだけだった。