唇に愛
夏の音

君に出逢ったのは、蝉さえもうなだれる八月。
世間で言う夏休みだった。
僕は大学受験を控えた18歳で、バイト先と家を行ったり来たりする、そんな平凡を楽しんでいた。

その時の僕は本当に平凡で、恋人は音楽と言い張っている寂しい18歳で。
君に出会ってからは、良い意味で心が休まらなかった。

初めて君を目にした時は、静かに心臓が脈打ったのを覚えている。
恋愛感情か、何なのかはわからないけれど、目をそらしたくなるほど、美しかった。

内巻きのふんわりとした黒髪。陶器の様な白い肌。
林檎みたいに美味しそうな唇。
これ以上言うと、君は怒り出しそうだから言わない。
だけど一番印象に残ったのは、深く、強い瞳だった。

おしとやかなイメージで、男は飛びつきそうだとも思った。

だけどそんな胸のトキメキは、君の言葉で一瞬にして消えたのだ。

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