奈那子が死んだ


 だが俺が8歳になったある日。

 久しぶりに会った奈那子さんのおなかが少し大きくなっていることに俺は気づいた。


 「ななちゃん、どうしておなかが大きいの?」


 俺がそういうと奈那子さんは優しく笑った。

 そして笑顔のまま俺に赤ちゃんがいるのよ、といった。

 俺には理解ができなかった、奈那子さんは結婚していなかったから。

 でもそれには触れてはいけない気がした。

 だから俺は8歳で初の失恋を経験した。



 今となっては懐かしい話である。

 俺ももう25歳だし、顔も自分で言うのもなんだが悪くはない。

 だからそれなりに経験もしてきた。

 でも心のどこかで相手の子と奈那子さんを比べてしまったこともある。

 まあ、初恋の人なんてそんなもんだろ、とも思う。

 俺にとって奈那子さんは一生特別なんだ。


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