眠れぬ夜は君のせい
ああ、それか。

彼女はそれが気に入らないとでも言いにきたんだなと思いながら、俺はカップをテーブルのうえに置いた。

章子の視線から離れるように、俺は椅子にもたれかかった。

「それは主人である俺の勝手だ。

お前には何の関係もない話だろ」

「――で、でも…」

でも、何だ?

俺は息を吐くと、
「名前すら忘れている彼女を吸血鬼のエサとしてお前に渡せとでも言うのか?」

「そんなことをおっしゃっているのではなくて…」

章子の口からは言葉が続かない。

沈黙が部屋を襲った。
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