眠れぬ夜は君のせい
伯爵家、か。

俺は谷田部に気づかれないように息を吐いた。

伯爵家と言う名の名ばかりの名誉など、そんなものは俺に必要がない。

金持ちのパーティーに呼ばれては金持ちの自慢話に相づちを打って、金のことしか頭にない色ボケのお嬢様のお相手をして後はなし。

夢もカケラもないものである。

本当に、退屈だ。

「それに、正宗様がそんなことをしたら優しい婚約者様が悲しまれますよ」

谷田部が言った。

優しい婚約者とは、日向章子(ヒュウガアキコ)のことだ。

あんなヤツの皮をはがせば、ただの金の亡者だ。

俺じゃなくて金と名誉を愛している、ただの色ボケクソ女だ。

優しい婚約者だなんて、よくそんな心にもないことを表現できるなと思った。
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