眠れぬ夜は君のせい
額に、あげはの人差し指が当たる。

「初めてでした」

あげはが言った。

「わたしに優しくしてくれたのは、正宗様――あなたが初めてでした」

頬に、涙が流れる。

「でも、わたしが……あなたと一緒にいることはできません。

これ以上いたら、あなたに迷惑がかかってしまう…」

迷惑なんかじゃない!

そう言いたいけど、唇が動かない。

「ごめんなさい、正宗様…」

あげはの唇が、静かに動く。

俺は、唇を動かすことができない。
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