眠れぬ夜は君のせい
一瞬、聞き間違いかと思った。

けど彼の唇から出てきたのは、“コンヤクシャ”の6文字。

私の、婚約者…?

話がついて行けない。

つまり……私はこの人と結婚するってこと?

どうにか解釈した私に、
「じゃ、私はこれで」

彼――衛藤さんが背中を見せる。

「えっ、待っ…」

音を立てて、風が急に吹いてきた。

「きゃっ…」

あまりの風の強さに目を閉じる。

風がやんで次に目を開けた時、そこに彼の姿はなかった。
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