魔王様はボク
おっと立ちくらみだ。
ボクはよろける体を、湯舟のふちに手を着くことによって支える。
視界が一瞬の白から元に戻った。
その時。
「にゃーっ!!」
湯舟から猫が飛び出してきた。
「…前と同じで芸がない。」
「にゃっ!?別に何も狙ってないにゃ!再登場でこんなこと言われるにゃんて…。」
前ので学んでなかったのか。
何度も同じことをやってもお客は喜ばないよ!
なんてね。
「で、どうしたの?忘れ物?」
やっぱり片方の視力を忘れてたからだろうか。
「うう…、相変わらず冷めてるにゃ。ブリザードだにゃ。」
ブリザードって…。
周りを凍らせる冷たさってことかよ。
「忘れてたわけじゃなく、視力を貰いに来たにゃ。最初くらいはバッチリ見たいかなと思ってすぐには貰わなかったのにゃ。」
おお、忘れ物かと思いきや実は慈悲だったのか。
確かにバッチリ目に焼き付けたよ。
ちょっと惜しいけど、この世界に来れた代償としては安いくらいだ。
右目の視力がなくても左目がある。
片目がないと距離感が掴みづらいらしいが、大した問題には思えない。
「あと、もう一つサービスに来たにゃ。」
「…サービス?」
というとあれか。
常連の客とかに店側がそっと差し入れて、サービスですってかっこよく決めるやつか。
ってそんなわけない!
レオンは脳内一人ノリツッコミを覚えた。
パララッパパッパー!
あ、これレベルが上がるときの音だ。
「君、あっちの世界から何か取ってきて欲しいものはないかにゃ?」
予想外の質問に、理解が一瞬遅れる。
「一つだけ取ってきてあげるにゃ。何も持たないで来た馬鹿な誰かさんのためににゃ。」
あはっ!
誰だよそれー。
ちゃんとしろよなー。
ボクだけど。
とこれはどうでもいいとして、持ってきて欲しいものか…。
なんだろう。
着替え?
いやでもそれはこっちでなんとかなるか。
食べ物と飲み物?
宿がある限りはいらないし。
携帯?
電波ないか。
ゲーム?
充電出来ないよね。
カメラ?
現像出来ないし。
…うーん、なんだろう。