ありのまま、愛すること。
強烈なマザコン
母はキャリアウーマンの走りのような人で、会社を経営していました。
ですから、当然、子どもの私が1日のうちでいっしょにいられる時間は、限られた短いものでした。
朝、ご飯をいっしょに食べるまではいいのですが、幼稚園や学校に行かなければいけないし、母は仕事に行かなければならない。
夜、母が帰宅するのがとっても待ち遠しかった─。
早くて19時、少し遅いと20時を過ぎるでしょうか。
祖母と姉と、3人で夕食を摂ったあと、
「もうすぐ帰ってくるかな、もう帰ってくるかな……」
自宅で母の帰りを毎晩待ちました。
外で靴音がすれば、玄関のドアの前まで行って聞き耳を立てます。
コツ、コツ、コツ……。
「あっ、あれはお母さんじゃない、な~んだ、残念だな」
母の靴音はすぐにわかります。
ハイヒールを履いていましたから、
「カン、カン、カン……」
という響きになるのです。
しかも、帰ってくるとき、母は必ず早足、急ぎ足です。
「あっ、お母さんが帰ってきた!」
そう認めるや否や、私は玄関を飛び出していきます。
母がエントランスのドアを開けるのが早いか、私がアパートの廊下に出ていくのが早いか、毎日、競争です。
そうして、私は母の懐に飛び込んでいくのです。
母は母で、1日仕事に精を出し、家に帰ってくるのが待ち遠しかったでしょう。
一生懸命に働いた後には、愛するわが子に会える─。
だからこその、母の早足だったのだと思います。