ありのまま、愛すること。
それぞれ別々の学校を卒業すると、二人はともに、就職をします。

母は横浜の映画CM代理店「横浜レインボー」に就職。チエ子さんは有楽町の日本劇場に就職。

母はスライドの製品を銀座や有楽町の映画館に納入するために東京に来ますから、そのたびに、二人は昼休み、銀座で落ち合ったそうです。

キムラヤでアンパンを買い、三越百貨店の屋上でベンチに腰掛け、あれこれと数日の近況を語りながらいれば、昼休みなんてあっという間に過ぎてしまう。

正面に見える服部時計台の大時計が12時55分になるのを認めると、二人は一目散に、銀座のど真ん中を走って、それぞれの職場に戻っていくのです。

母はファッションにも敏感で、当時の映画女優などから流行の最先端を取り入れて自分のものにしていたようです。

それはチエ子さんからすれば、相当派手な部類に映ったようで「イマ風に言えば“トンデる”と言われるようなところがあったかもしれないわね」と、懐かしそうな笑顔を浮かべて話してくれたことがあります。

独身時代ですし、いまで言えば二人とも「ビジネス・ウーマン」です。

仕事に、遊びにと、青春時代を二人で謳歌していたのでしょう。映画を観て、レストランで食事をし、人の多く集まるところを好んだ母だったようです。
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