ありのまま、愛すること。
慌てて病室に入ろうとすると、

「入っちゃダメ!」

看護師の一人に制止された。

その病室はたぶん、集中治療室と呼ばれるものなのだろうと、小学4年生にも想像がついてしまった、そう、最悪の、最悪の想像が─。

「なんで、どうしたの? お母さんはなかにいるんでしょ!」

私は次第に、駄々っ子のような口調になっていった。

ふと、病室のドアに目が行って気がついた。

鋼鉄製の頑丈なドアのはずなのに、それはなぜか、少しだけ隙間があいていた。

そこから母の姿がわずかに覗いている。

母は目を閉じていて、口には酸素マスクがつけられていた。

きれいな、世界でいちばん美しい母の顔が、そのとき私には見えなかった。

そして母の胸には、男の医師が二人がかりで、両手のひらを何度も何度もリズミカルに、力任せに押さえつけているではないか。

私の心臓は、その動きに呼応するようにバクバクと打ち鳴った。

身じろぎもせず、何時間廊下で待っただろうか。
< 3 / 215 >

この作品をシェア

pagetop