ありのまま、愛すること。
私は祖母が元気なころから、毎年温泉旅行をプレゼントしていました。最後に連れていったのは、亡くなる1カ月ほど前に、許可を取って病院を抜け出してのことでした。

場所は、熱海の金城館という老舗の温泉旅館です。

「おばあちゃん、思ったよりも元気そうだよ。温泉に行けると思って、張り切っているんでしょう」

迎えに行った私がそう声をかけると、

「美樹さんのお陰で温泉に行けるんだね、あなたは本当に優しい子だね」

祖母の声はすでに張りはなかったのですが、しゃべりはなめらかでした。

「ありがとう、ありがとう。私が死んでも、絶対にあなたのことは守り続けるから」
それが祖母の口癖でした。

93年の生涯を全うした祖母から私が学んだのは、人生は最期まで全うするものだということ、そこに、「いつも笑顔でね」と、祖母はつけ加えてくれている気がします。
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