ありのまま、愛すること。
10年間だけで母親と離れなければならなかった私は、10歳以後、その大切なメモリーを忘れずにいて、自分で思い起こすことしか、母に抱かれる感触を自分にふたたび与えることはできなかったからでしょう。

だからこそ、その10年間にあった母の内懐に抱かれた数々の記憶を、自分の意識にメモリーできていたのです。

最後、母が入院するまで、私は寝室の母のベッドにもぐり込み、抱いてもらって寝ていました。

私は文字通り、胎児の格好になり、母の腕のなかで寝息をたてた。

母は母で、私を包み込み、柔和な笑顔を浮かべていました。

成人して、マザー・テレサを知ることになったとき、呼び起こされた私の記憶は、母に抱かれたそれらの場面の感触をともなったものだったのです。


自分が傷つくまで愛する─。

尽くして、尽くして、さらに尽くして、傷つくまで愛する。

そして、自分の持っているものすべてを差し出す。

お腹がすいているときに、自分よりもっとお腹がすいている人に会わせてほしい。

寒いときに、もっと寒い思いをしている人に会わせてほしい─。
< 79 / 215 >

この作品をシェア

pagetop