山荒の鳴く夜
だがこの攻防で、永倉も原田も大きく体勢を崩した。

今ならその間隙を縫って、包囲から脱出できそうなほどに。

…平助は察知する。

修羅場を共に潜り抜けてきた平助だからこそわかる。

(こいつら…情けをかけてくれるのか)

この二人ならば、たかが一合で体勢を崩すほど剣腕は甘くない。

三手先四手先を読んで動くような者達だ。

こんな隙を見せる筈がない。

…事実、永倉はこの任務に当たる前に近藤の口から「藤堂だけは生かしておきたいものだな」と聞かされていた。

平助は沖田 総司、永倉 新八、斎藤 一とともに近藤四天王とも称される。

あの池田屋事件でも最初に斬り込んだ四人の内の一人だといえば、どれ程局長の信頼を受けていたかもわかるだろう。

御陵衛士に寝返り裏切られたとしても、平助だけは生かしておきたい。

そう思われるほどに、彼は近藤 勇、そして永倉や原田にも信を置かれていた。

< 10 / 101 >

この作品をシェア

pagetop