山荒の鳴く夜
その咆哮に重なる声があった。

その声も咆哮。

平助の上げた叫びは比喩としての咆哮であったが、重なる声は文字通りの咆哮。

獣が闇夜に上げる雄叫びそのものであった。

それは、あまりにも禍々しい雄叫び。

数多の戦場を掻い潜り、多くの屍を踏み越えてきた新撰組の隊士達が、その雄叫びに思わず身を竦ませて足を止める。

死を覚悟して囲みに突っ込もうとしていた平助でさえ、その咆哮に気をとられて声のした先を見る。

…咆哮の通り、そこには獣がいた。

しかし野犬などでは決してない。

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