山荒の鳴く夜
野犬よりも遥かに大きな体躯。

黒く長い体毛に覆われ、眼だけが闇夜の中で爛々と赤く輝いていた。

耳元辺りまで大きく裂けたような口には、鋸のような牙が並ぶ。

その犬歯を見れば、その獣が他者の肉を食らって生きる肉食獣である事は一目瞭然だった。

だとしても…。

永倉も、原田も、平助も。

こんな肉食獣を見るのは生まれて初めての事だ。

その獣は二本の足でしっかりと直立していた。

そして背面の体毛は、まるで周囲を威嚇するかのように大きく逆立っている。

暗がりのせいだろうか。

少なくとも平助にはそう見えた。

しかしそれはすぐに間違いだとわかる。

逆立っているのではない。

いや、体毛ですらないのだ。

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