山荒の鳴く夜
まともに対峙したのでは、流石にうろたえるしかあるまい。

しかし幸か不幸か、その獣は新撰組の面々にのみ意識を向けていた。

それ以外には興味すら示していない。

そう、窮地に追い詰められていた平助になど、見向きもしない。

これは好機であった。

獣の毛針に狼狽し、逃げ回る新撰組隊士を掻き分け掻き分け、平助は油小路からの逃亡を図る。

ここでかつての仲間達に討たれ、討ち死にも覚悟の上だった。

だが好機が巡って来たならば話は別。

絶好の機が目の前にぶら下がっていながら見て見ぬふりをするほど、平助は愚かな男ではない。

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