山荒の鳴く夜
京都見廻組。

無論彼らも腕に覚えのある者ばかりで編成された剣客集団である。

弱い筈がない。

弱い筈がない集団を、その者は一人で狼狽させていた。

元結で縛った美しく長い黒髪が揺れる。

漆黒の闇夜よりも尚黒い髪は、まるで京都見廻組を死へと誘うかのようだ。

小奇麗な男物の着物を纏うその姿は眉目秀麗。

幕末の主流剣術の一つである天然理心流の腕前とも相まって、『長州派の沖田 総司』の噂に違わぬ強さだった。

だが…当人はその異名にいたく立腹している。

「長州派の沖田 総司ですって?人斬り鬼如きと一緒にしないでちょうだい」

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