山荒の鳴く夜
そんな長州派の巨頭が、一介の人斬りに過ぎない椿に何の用なのか。

まさか桂が待っているとは思いもしなかった椿は、立ち尽くしたまま硬直してしまう。

「そんなに硬くならなくてもいい」

微かに微笑み、桂は目の前の座布団を指す。

「座りたまえ高遠君。楽にするといい」

「はっ…し、失礼致します」

帯びた愛刀を脇に置いて、椿はギクシャクと桂の前に座った。

…互い向き合ったまま。

桂は湯呑みの玉露を音もなく一口飲む。

無論椿は緊張のあまり、茶を飲む余裕などない。

しばし間を置いて。

「腕が立つそうだね、高遠君」

桂が穏やかな声で言う。

「いっ、いえっ…」

硬い表情のまま椿が答える。

「神道無念流の桂様に比べれば、私の剣など児戯のようなもので…」

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