山荒の鳴く夜
「そのように卑下しなくともいい」

桂は再び優しげな笑みを浮かべる。

「君の剣腕によって、多くの長州派の同胞が幕府から命を救われた。新撰組や京都見廻組から、何度も助けられたと聞いている…同様に君のようなうら若き乙女に、人斬りなどという汚れ仕事を強いてしまった…その事は、本当に申し訳なく思っている」

座り直し、桂は末端の人斬りである椿に対して深々と頭を下げた。

「どうか許してくれ。この通りだ」

「かっ、桂様っ!」

椿は慌てる。

「よ、止して下さい!桂様のようなこれからの日本を背負って立つような方が、私のようなたかが人斬り如きに!頭を上げてください!」

アタフタして狼狽する椿の言葉を聞いて、ようやく桂は頭を上げた。

「それで…今回高遠君をこの場に呼び出したのは…申し訳ないのだが、またも人斬り働きを頼みたいのだ。君のような腕利きの剣客にしか出来ない任務…君の天然理心流の腕前を借りたい…」

桂は神妙な顔をして椿を見つめた。

「正確には、斬るのは人ではないのだが…」

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