山荒の鳴く夜
幕府方も志士も見境無しに殺す殺人者。

血の色に魅せられ、人を斬る事にとり憑かれてしまった者が、時折時と場所と相手を選ばず凶行に走るという話は聞かぬでもない。

そういった手合いによる犯行だと考えかけていた椿は。

「高遠君は、『山荒(やまあらし)』という妖怪を知っているか」

桂の口から出た突拍子もない発言に耳を疑う。

「妖怪…ですか?」

「ああ」

訝しがる椿に対し、桂は真面目な顔で続ける。

「実際に襲撃を受けて命からがら逃げ延びた者の中で、目撃した者がいるというのだ。背中にびっしりと鋭い針を生やし、黒い体毛に覆われた二本足で歩く真っ赤な眼の獣が、この京の街を夜な夜な徘徊していると…」

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