山荒の鳴く夜
山荒は、実際に書物にその名が残されている。

『百鬼夜行絵巻』では、棘状の突起に全身を覆われた獣の姿として描かれている。

勿論多くの者がただの作り話として受け止めているし、そのような妖怪が実際にこの世に存在するとは思ってもいない。

「ヤマアラシという生き物が、西洋には存在するという話を異国に詳しい者から聞いた事はあるが…それでさえも二本足で歩くとは言っていなかった…何より好んで人間を襲うのだ。人外と考えても不思議ではなかろう」

「……」

椿はいまだ信じ難い。

長州派の筆頭である桂を疑う訳ではないが、仲間や幕府方を襲ったのが人外だなどと…。

あまりに話が突飛過ぎる。

< 28 / 101 >

この作品をシェア

pagetop