山荒の鳴く夜
「やれやれ…」

ゆっくりと起き上がり、着物についた砂埃を払いながら細目の男は立ち上がる。

刀を構え直す椿。

だが。

「店の外に出たのもいい機会だし、ここらでお暇させてもらうぜ」

細目の男は戦いにまるで執着する事なく踵を返す。

戦い慣れした者は引き際も鮮やかだというが、それとは少々違って見える。

用件が済んだのでその場から離れるといった様子。

「長州派の隠れ家にどんな奴がいるのかわかった事だしな」

「やはり幕府方の密偵か?」

椿の問いかけに。

「志士だ幕府だ尊王だ攘夷だ…」

くくっ、と。

細目の男は喉の奥を鳴らすように笑った。

「そんなくだらねぇ事ぁ興味ねぇんだよ」

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