山荒の鳴く夜
幕府でも志士でもないというのか。

かといって市井の人間というには、この男はあまりにも血の匂いがし過ぎた。

「名を名乗るのが筋ではないか?」

椿が尚も問いかける。

「人斬り風情が武士気取りかよ」

「何っ!?」

細目の男の挑発に簡単に頭に血を昇らせる椿。

その様子を嘲笑いながら。

「シイ」

彼は答えた。

「上にも下にも何にもつかねぇ。シイ…それが俺の名前だ」

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