山荒の鳴く夜
名字も持たぬとは…。

ならばこの男は武家の人間ではないのか?

視線を外さぬまま、椿は思案を巡らせる。

武家ならばどのような下級だろうと、幕府が志士に属する筈。

いや、身分に関わらず隊に属している奇兵隊のような例もある。

しかしこのシイという男はどちらにも属さぬという。

「一体貴様は何者なのだ…?」

「質問ばっかりだな」

ウンザリといった表情で遠ざかりながら。

「お前と一緒だよ、娘さん」

シイは背を向けたまま答えた。

「人を殺める者だ」

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