山荒の鳴く夜
浅葱色に段だら模様の羽織を着ていない。

大勢の部下を引き連れていない。

しかしそれは、確かに椿が対峙した事のある相手だった。

「新撰組八番隊組長…藤堂 平助…!」

「元…な」

驚愕の表情を見せる椿の前で、平助は不敵な笑みを浮かべた。

「お前は一年前に油小路で死んだと聞いていた…」

「ああ。そういう事にしといたのさ。死んだって事にしとけば何かと動きやすい。こう見えて俺は売れ者なんでな。面が割れててやりづれぇのさ」

何食わぬ顔をして言ってのける平助。

死んだ筈の者が、生きてひょっこり顔を出す。

幕末の動乱の中では、それ程珍しい話ではなかった。

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