山荒の鳴く夜
「死んだと見せかけておいて油断を誘う気か…あざとい真似をするのだな、新撰組八番隊組長ともあろう男が…」

すかさず居合いの構えを取る椿。

「早合点するんじゃねぇよ」

平助は両手を上げて抵抗の意思がない事を示す。

「俺ぁ『死んだ事』になった瞬間から、もう壬生狼じゃねぇ。新撰組からは籍を抜いたんだ。尤も、敵前逃亡は士道不覚悟…新撰組から籍を抜くには、どの道死ぬしかなかった訳だがな」

「……」

尚も居合いの構えを解かない椿に対し、平助は駄目押しの一言を追加した。

「俺ぁもう新撰組八番隊組長じゃねぇ。只の『藤堂 平助』だ」

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