山荒の鳴く夜
そんな事を考えているうちに、見慣れた小料理屋に辿り着く。

大萩屋。

長州派維新志士の潜伏先。

現在の椿の住まいでもある。

「只今戻りました」

引き戸を開けて中に入る。

「おお高遠、帰って来たんか」

中では志士の男が留守番していた。

備後訛りのあの男だ。

先日やって来たつり目の痩せた男に怪我を負わされたばかりの筈だが。

「怪我はいいんですか?」

「一応医者に診てもらったからのぅ。安静にしておりゃあ大丈夫じゃそうな」

特有の備後弁で、男は笑って見せた。

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