山荒の鳴く夜
シイのつり上がった眼が微かに見開かれる。

「何の真似だい、お侍さん」

「とぼけるのも大概にしようや」

刀を握り締めたまま、平助は一歩踏み出す。

「俺も元新撰組の組長だ。これまで幾度となく斬り合いを経験してきたし、色んな奴と刀を交えてきた。だから分かるんだよ…人を殺めた奴ってのは、血の匂いが消えねぇ…どんなに洗い流しても、人斬りや殺人者ってのは、特有の返り血の匂いってのが残るもんなんだ…その匂いはどれだけ上手く変装したって、隠せるもんじゃねぇ…」

平助の刀の切っ先が、シイに向けられた。

「てめぇ、昨夜の人外だろ?」

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